仙台高等裁判所 昭和38年(ラ)65号 決定 1964年2月12日
抗告人 日米商事株式会社
相手方 株式会社太田忠蔵商店 外三名
主文
原決定を取消す。
本件競落はいずれも許さない。
理由
抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりであるから、以下これにつき判断する。
一、抵当権の実行として数個の不動産に対し競売の申立がなされた場合、これを個別に競売するか一括して競売するかは、競売裁判所の自由裁量によつて定めうるところである。一括して競売に付すればその最低競売価額が著しく高額となり競買申出が困難となるおそれが十分考えられるから、一括競売が適当であるのにこれを個々に競売に付したがために、より低額に競落せられた場合でも、これをもつて妥当ではないといい得ても、それが直ちに競落許可決定を違法として取消すべき民訴法六八一条二項所定の事由に該当するということはできない。しかしながら、本件記録中鑑定人高橋富蔵作成の評価調書及び添付の青写真によれば、別紙目録<省略>(2) 記載の建物は(1) 記載の宅地上に存し、いずれも相手方株式会社太田忠蔵商店の所有に属するもので、右建物は同商店経営のガソリン販売の給油所として、右宅地の中右建物の敷地以外の大部分は駐車場として各利用されており、その外にコンクリートブロツクの塀及び右給油所の附属施設として地下油槽が存することが認められるので、右宅地建物は客観的経済的にみて有機的に結合された一体をなすものというべく、(このような場合に右土地と建物とは一括競売に付するのが適当であろう。)右コンクリートブロツク塀は右宅地と附加して一体をなすものと推断するに十分であり、また右地下油槽についても、これをガソリンの揮発性及び可燃性による事故並びに火災防止上、数メートルの地下に他の給油施設と共にその周囲を間隙なしにコンクリートで堅固に固定築造されており、これを取出すには相当の毀損をさけられず、為に使用に耐え得なくなるものであるとの抗告人の主張は、これをそのまま肯認するに適切な直接資料を見出し得ないけれども、民法第三七〇条にいう「附加して之と一体をなしたる物」とは必ずしも物理的に附加一体をなしたるものたるに止まらず、経済的に不動産と一体をなしてその効用を助けるものをも含み、その一体となつた時期如何を問わないと解するのが相当であるから、右地下油槽は前記ガソリン給油施設として有機的に結合している右宅地建物の附加一体物と解することができ、従つて右コンクリートブロツク塀及び右地下油槽の各物件は共に本件抵当権の効力が及ぶものとして本件競売の目的物件となつているものといわなければならない。しかるに右宅地建物の最低競売価格に右各物件の価額が含まれていないことは、その基礎となつた高橋鑑定人の評価調書中に右各物件の評価を除く旨記載されていることにより明らかである。もつとも右各物件につきその価額が幾何なりやを認定するに足る資料はないが、相当な価額であろうことは想像に難くない。そうすると、原裁判所が右宅地建物につき右各物件の価額を除いて定めた最低競売価額及びその公告はいずれも違法であり、ひつ竟正当な手続により適法な最低競売価額を定めなかつたのと実質において同一に帰着し、法律上の売却条件に違反するものといわざるを得ず、この点に関する抗告論旨は理由がある。
二、次に別紙目録(3) ないし(11)記載の各建物につき考えるに、記録によれば原裁判所はこれら建物につき前記高橋鑑定人の評価鑑定に基き、各別に最低競売価額を定め、もつてこれを個々に競売に付した結果相手方太田よしに対し、右最低競売価額の合計金二四四万五三〇〇円を七百円上廻る金二四四万六〇〇〇円で競落を許したものであることが認められる。ところで、右建物はいずれも寒河江市大字寒河江字幸田甲三八〇番甲三八三番合併の一、宅地一二五坪の上に存し、それらの所有者は相手方太田忠蔵であり、右宅地も競売の目的物件となつているのであるから、右各建物と右宅地とを各別に競売すれば当然右宅地につき右建物の所有権取得者の為法定地上権を生ずべく、従つて宅地は地上権の負担があるものとして、建物については地上権を伴うものとしてそれぞれ適正に評価すべき筋合であるところ、右高橋鑑定人の評価調書を仔細に検討すれば、宅地は地上権の負担なき更地として、また建物は地上権を伴わないそれ自体の価格のみを評定し、従つて結果において、宅地は不当に高価に、建物はそれにつれ不当に安価に評価したものであることを窺い知るに難くない。しからば、右評価鑑定はとつてもつて最低競売価額決定の資料となすべからざるものであり、原裁判所がかかる評価に基き前記最低競売価額を定めて公告したのは違法であり、前記一記載と同様に法律上の売却条件に違反するものといわざるを得ず、この点に関する抗告論旨もまた理由がある。
三、以上のとおり、本件各競落は右の点において違法であり、これを許すべきでないから、他の抗告論旨に対する判断を省略し、原決定をいずれも取消すべきものとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 高井常太郎 上野正秋 新田圭一)
別紙
抗告の趣旨
一、別紙目録記載の物件につき昭和三十八年七月二十六日山形地方裁判所が為した同庁昭和三十七年(ケ)第四八号不動産競売事件の競落許可決定は之を取消す
との趣旨の御決定を仰ぐ。
抗告の理由
一、(一) 本件不動産競売申立事件につき鑑定人高橋富蔵が執行裁判所の命により昭和三十七年七月二十一日競売に附すべき各物件に対する価額を評価し以て評価調書を提出したので裁判所はその評価額を以て当時の時価と認め之を最低競売価額として公告し以て競売に附したものである。
(二) 然るに其後本件競売手続が遅延し既に約一年を経過した為め同裁判所は昭和三十八年七月十九日を競売期日と定め、各競売物件の最低競売価額は前記約一ケ年以前に前記鑑定人が評価した数額をそのまま援用して之れを公告し以て各物件を競売に附したのである。
(三) 然れども昨年より既に壱ケ年の月日を経過した為め其間社会経済事情は著しく変化し物価は之亦甚だしく高騰し就中本件競売に附した土地建物は孰れも山形市より寒河江市を通過し荘内方面に至る六十里越国道及び最大出力一万五千四百キロワツトと千二百六十キロワツトを誇る上郷、旭両発電所を有する朝日町に至る国道に面する寒河江市最賑の三叉地点に所在し且つ寒河江市より河北町に至る新設県道は二ケ月後の完成を目指して現在工事中であつて、都市の面目は一新し、従つて土地建物の価額は共に高騰して昨年度の時価を以て今日之れを律することは社会通念上洵に不相当と思われる事態が生じたのであり、従つて昨年度の最低競売価額を以て競売物件の競落を許すことは不当に低廉に過ぎる有様となつたのである。その結果、先順位の根抵当権設定債権合計金が六百万円存するだけでも抗告人(競売申立人)は債権の満足を得られないのに、更にその実存する債権及び申立人の債権に対する約一年分の利息債権が増加したのに対し、最低競売価額のみは時価の高騰に相応しない為めに抗告人は一層債権の満足を受け得ざる事態に立至つたのである。
(四) かかる場合裁判所は須く新たに評価人をして競売物件の時価を評価せしめた上最低競売価額を決定して競売に附すべきは当然に不拘事ここに出ずして競売に附すべき物件を旧来の儘の不当に低廉な価額を以て競売に附せられたのに利害関係人に莫大の損害を蒙らしめるに至る結果に陥るものであり、結局右は競売法第二十八条の最低競売価額を正当に定めないで公告したものである事に帰するから同法第三十二条第二項の準用規定による民事訴訟法第六百八十一条第二項、同法第六百七十二条第四号に所謂競売期日の公告に第六百五十八条第六号の要件の記載ない場合に該当するものと思料するものである。
二、(一) 鑑定人高橋富蔵が昭和三十七年七月二十一日付を以て評価調書と題して山形地方裁判所に宛て提出した鑑定書中本件競売申立書添付目録中第九の寒河江市大字寒河江字六供町甲三百八十番、甲三百八十三番合併の壱宅地百二十五坪については右地上に存する建物に対する法定地上権の価額を控除しない更地そのものの評価額を金百三十七万五千円也と又、同目録第十の同所所在家屋番号大字寒河江三百二十八番木造亜鉛メツキ鋼板ぶき二階建店舗兼居宅外八棟の建物については、右建物に伴随する所在宅地の法定地上権の価額を加算しない建物のみの価額を金二百四十四万五千三百円也と夫々鑑定し、同裁判所は右物件の競売期日の公告に於て前記評価額を以て夫々最低競売価額と定めて之を表示したものである。
而して昭和三十八年七月十九日の競売期日に於て訴外太田よしは前記建物九棟を右最低競売価額を超えること七百円即ち金二百四十四万六千円を以て競買を申出でたが、その敷地である前記宅地百二十五坪については同人は素より何人も競買の申出をしなかつたのである。
(二) そうすると前記太田よしが競買申出をした建物につき競落許可決定が確定すれば右建物はその敷地である前記宅地百二十五坪につき民法第三八八条の拡張解釈による法定地上権をも取得する結果となるのである。
(三) その結果従来何等の制限を受けていなかつた宅地の完全所有権が法律上処分につき制限を受けることになるのであるから右宅地の価額は当然減少するの結果に陥るべく、又競売法第三十条、民事訴訟法第六百七十条の規定によるも最早や前記競売期日に競買価額の申出のなかつた為め本件宅地は新競売期日に於ては当然最低競売価額は相当低減する結果に陥るものである。
(四) かかる事実を分解すれば、前記太田よしの前記建物競買は今後新競売に附せられる右宅地の価額を著しく減少せしめ剰え最低競売価額より金七百円を超えた代金を以て同人が取得すべき財産は前記建物の所有権と未だ評価されていない法定地上権をも併せて取得することになるのである。
(五) そうすれば、前記鑑定人の評価調書中の前記宅地の鑑定は法定地上権の価額を控除しない不当に高価に又、前記競買申出の建物については法定地上権を包含しながら、この価額を計上しない不当に安価な価額で評価したものであると謂わなければならない。
(六) その結果前記鑑定人高橋富蔵の前記各物件に対する評価はその鑑定の基礎たる事項につき重大な過誤があり、従つて最低競売価額決定の資料となすべからざるものであるから原裁判所がかかる評価に基き最低競売価額を定めて公告したのは違法であつて、ひつ竟正当な手続により適法な最低競売価額を定めなかつたのと実質に於て同一に帰着し法律上の売却条件に違反するものといわざるを得ないものであり(東京高等裁判所判決時報昭和三十四年五月十五日発行第一〇巻第二号民三二頁中二参照)、前記本件建物の競売は競売法第三十二条、民事訴訟法第六百七十二条第三号に所定する売却条件に牴触するものであるから右物件に対する競落許可決定は取消さるべきものであると信ずる。
三、(一) 本件に於て競売手続を開始された債務者所有不動産全部に対しては、抗告人に先順位債権者株式会社殖産相互銀行は元金三口合計六百万円也並に損害金につき根抵当権を設定し、続いて抗告人も右物件全部に対し貸付元金二百十六万円也及債権貸付限度額金九百万円並に損害金につき抵当権及び根抵当権を設定し更に債権総額七百四十四万円につき抵当権設定の仮登記をなしているのであつて、本件競売物件の競売価額の増減は抗告人及債務者の利害に対して極めて重大な影響を有するものである。
(二) 然るに執行裁判所は競売に附すべき物件に就ては孰れも各別に、就中、同物件第九宅地百二十五坪には第十記載の木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建店舗外八筆この合計敷地面積九十五坪二合五勺の建物が存在しているに不拘建物とその敷地とは各別に分割競売に附した為め建物のみは総て競売期日の公告に表示された金額を以て競買人として競買の申出をされたが、その敷地は全然競買の申出がなかつたのである。
(三) 尤も数箇又は多数の不動産を競売に附するに当つては之を一括して競売すべきか或は又各別に競売すべきか、細別すれば、競売物件の土地とその地上建物とを全部一括して競売に附すべきか或は数箇の土地は夫々又数箇の建物は夫々と数箇宛を一括し或は土地又建物の内、土地と建物とを夫々包括して各一括競売に附すべきか或は競売物件全部を各別に売却すべきかどうかということは競売法並に民事訴訟上何等の規定がない為め、かかる判断は競売裁判所の意見により自由に定めることが出来るものと解されている。
乍然かかる裁判所の意見による競売方法の定め方については「利害関係人の利益を考慮しないで競売の方法を任意に定めることができるものと解することができない。蓋し抵当権の実行を競売の方法によらしめたのは、できるだけ目的物件を高価に売却して債権者に満足を与えるとともに債務者、物件所有者等の利益を保護するのが法の精神であるからである」(最高裁判所事務総局下級裁判所民事裁判例集第一二巻第九号、昭和三十六年九月分二三六八(一九八)頁、仙台高等裁判所昭和三六年(ラ)第三八号決定参照並に法律学全集三九巻競売法一四八頁十三行より十五行(イ)まで参照)。
換言すれば競売方法の定め方について民法第三九二条第一項、民事訴訟法第六七五条等の各法条の適用を除いては競売裁判所は当事者並に物件所有者等が所有物件に抵当権を設定した当時の意思並にその利益保護の観点等其他諸般の状況を観察し、競売物件が最も高価に売却のできる方法を採らなければならないものであると考えられるのである。即ち競売に附すべき物件相互の経済的或は立地条件等は勿論不可分的包括的存在等あらゆる事情を勘考し以て総括又は部分的一括或は又分割等の競売手続に拠らなければならないものと思料するものである。
そして「その各不動産が位置、形状構造、機能の諸点より客観的経済的に観察して有機的に結合された一体をなすものと見られ、若しこれを分離して個々に競売するときは、一括して競売する場合に比し、甚しき価額の低落を来し、抵当権者並に債務者所有者等の利害関係人に著大な損害を及ぼす結果となることが明白に予測される場合には、競売制度が本来抵当債権満足のための手段であり、裁判所の関与によつて公正にしてなるべく高価にこれを売却することを目的とするものであることに鑑み、競売裁判所としては、他の抵当権者に対する売得金の配当に支障を来すとか、その他何等か一括競売を不当若しくは不便とする事由があるのでない限り、強いて個別に競売することなく、一括競売の方法によるべき」(昭和三十四年五月十五日発行東京高等裁判所判決時報第一〇巻第二号三一頁以下参照)ものである。
(四) 而して本件競売物件目録第九、第十の物件である宅地建物は素々抵当権設定当時一括して抵当権を設定したものであつて債務負担当時と時を異にして順次抵当権を設定したものでなく、又土地建物は総て同一地番に存在しているのであるから、特段の事由の存せざる限り、当事者は最後には是等一団の宅地建物の一括売価を以て弁済に充てんとする意思であると判断することが相当であると考えられるのである。
従つて之れを一括競売に附することが当然のことであり、之れにより高価売却という最高唯一の使命を果し得べきも、却て宅地と地上建物とを分割して競売に附する場合には建物のみの競落者には宅地につき当然民法第三八八条による法定地上権が伴随する為め、当然宅地の競売価額は低減するか又は競売法第三十一条、民事訴訟法第六七〇条により、当然最低競売価額を低減せしめられ、或は売却困難に陥り、建物の競買代金の値上程度を以てしては補てんすることの出来ない多額の損失を招くこと明白であると考えられるのである。従つて本件競売物件に対しては当然一括して競売に附すべきものである(昭和三五年五月最高裁判所事務総局発行、訟廷資料第二七号、不動産任意競売手続研究二二五頁参照)。
(五) 依つてかかる場合競売裁判所は本件第九、第十の宅地及びその地上建物につき一括競売をする旨を定めて鑑定人にその評価を命じ、更に最低競売価額を定めて右物件につき(部分的)一括競売をする旨公告した上で競売に附すべきものである。にも拘らず、裁判所はその適法な手続に従わなかつたのであるから
(1) 高橋富蔵鑑定人の評価は、その方法について重大な過誤があり、適法な最低競売価額の決定があつたとは言い得ず、裁判所がかかる評価に基き最低競売価額を定めたのは違法であつてひつ竟正当な手続により適法な最低競売価額を定めなかつたのと実質において同一に帰着し、法律上の売却条件に違反するものであつて競売法第三二条、民事訴訟法第六七二条第三号に該当するものである。
(2) 又、その違法な最低競売価額の公告は適法な最低競売価額の公告がなかつたのと実質において同一に帰着し、競売法第三二条、民事訴訟法第六七二条第四号、同法第六五八条第六号に該当するものである。
従つて本件競落許可決定は取消さるべきものであると信ずる。
四、(一) 昭和三十八年七月十九日付山形地方裁判所執行吏神谷貞雄作成本件不動産競売調書並に同年七月二十六日付山形地方裁判所の競落許可決定によれば、訴外有限会社長沼商店は、本件競売物件中寒江市大字寒河江字幸田二百九十七番地の二宅地六十三坪を価額金四百四十一万円にて、又同所家屋番号六百七十六番の弐一木造亜鉛メツキ鋼板ぶき平家建店舗建坪七坪七合五勺を価額金二十二万一千円にて競買の申出を為し、右競落許可決定があつたことが認められる。
(二) 然るに右物件の評価鑑定人高橋富蔵が昭和三十七年七月二十一日山形地方裁判所に提出した評価調書並に字限図面によれば前記亜鉛メツキ鋼板ぶき平家建店舗建坪七坪七合五勺はコンクリート塀及地下の油槽等の設備と共に前記同所同番宅地六十三坪に所在し、ガソリン販売の給油所として事務所及び一部居宅に利用していることが明らかである。
(三) そうすると右油槽は同番宅地六十三坪の地下に埋設せられ、前記建物及び宅地の利用の為め常用に供せられていることが明らかであるが、現代日本におけるガソリ給油の為めの油槽と言うものは、その揮発性及び可燃性による事故並に火災防止の為め数メートルの地下に他の給油設備と共に、その周囲を間隙なしにコンクリートにて堅固に固定築造、常置せられているものであつて、仮に之を取出すとすれば、それは物理的には可能であるが、取出しの際の衝撃による毀損の為め、その油槽は最早や使用に耐え得ざる物になる点に於て、その取出しは社会経済的には不能である。依つて右は独立性ある動産であるか或いは不動産(土地)に付加して之と一体を為すものであるか、その判定は極めて困難のものがある。仮りに鑑定人高橋富蔵の昭和三十七年七月二十一日付評価調書の趣旨に鑑み、右油槽が民法第八十七条第一項に規定する従物の趣旨に解釈すれば、本件土地建物が競売せられたときは、当然その従物である地下油槽設備一切も亦主物の処分に随うべきこととなる。
(四) 然るに前記鑑定人高橋富蔵の評価調書によれば、前記建物の評価に際しては、かかるコンクリートブロツク塀及び地下埋蔵の油槽は之を含まないと明記されている為め、本件競売物件としての対象より除外せられたものであると考えられる。
(五) 乍然かかる物件が、その従属性を失うのは、その設備、用法の変化か或は所有者の意思にかかるものであつて、第三者の意思によるべきものではないと考えられる。そうすると、鑑定人高橋富蔵作成評価調書末尾記載の文言によつて、本件競売物件の建物に対する従属性を失う謂なく、その地上建物の競落者である訴外長沼商店は当然その所有権を取得するものであると言わなければならない。然るに、かかる油槽の価額は最低競売価額に包含していないことも一件記録に徴して明らかである。
(六) 然れども、右油槽設備を競売物件中に包含したる場合と然らざる場合とに於ては、競売代金の数額に著しき相違を来たし、延いては抗告人の利害に影響すること極めて重大なるに不拘、かかる設備を競売物件より除外したのは、競売法第三十二条及び民事訴訟法第六百七十二条第三号に該当する違法あるものと信ずる。
五 以上の理由は、前記油槽設備が民法第三百七十条に謂う付加物であるとすれば、かかる物件を競売目録より除外することは、到底不可能であつて、前項と同一の法律違反の事由が存するものである。
六 更に亦、右物件に対する競売は公告の記載方法にも違法がある。即ち、コンクリートブロツク塀及び地下油槽設備が、本件競売物件中より除外せらるべきものであるとすれば、前記土地又は建物の表示中に但書にて「コンクリートブロツク塀及び地下油槽設備一切は之を除く」旨記載すべきであるに拘らず、漫然と右土地、建物のみ表示したのであるから、競売法第三十二条、民事訴訟法第六百七十二条第四号、同法第六百五十八条第一号に該当する違法が存するものである。
然乍本件競売の場合、前記詳述せる通り、抵当権の効力はコンクリートブロツク塀及び地下油槽設備にも及ぶものであつて、これをも競売物件中に含ましめるべきものであるから、競売公告には右土地或は建物の表示中に但書にて「コンクリートブロツク塀及び地下油槽設備をも含む」旨記載して、競売物件の範囲を明確に表示すべきであるに不拘、漫然土地、建物のみを表示し、之を記載しなかつたのであるから、同じく、競売法第三十二条、民事訴訟法第六百七十二条第四号、同法第六百五十八条第一号に該当する違法が存するものである。
七、本件競落許可決定は、すべて取消さるべきものであること、以上に詳述せる通りであるが、取消されて新たに競売に附せられるに際しては、前記四、(一)、に記載せる物件も亦、土地、地上建物にコンクリートブロツク塀及び地下油槽設備をも含ましめて、之を一括して競売に附すべきものである。その理由は、前記三、に詳述せる通りである。